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2005年 07月 13日
ブルータワー
石田 衣良 / 徳間書店 スコア選択: ★★★ どんな世界にいてもかまわない。与えられた瞬間にいきいきと存在し続けることが、なによりも重要なのだ。《本文p129》 ----------------------------------------------------------------- 人間の悪や残酷さを見たとき、ぼくたちはそれと同じ数だけきっとある光りとやさしさに目を向ける必要があります。この本が、ジェットコースターのようなおもしろささだけでなく、そのかすかな光りになりますように。 《あとがきより》 ----------------------------------------------------------------- 末期脳腫瘍患者が精神だけを200年後の世界に飛ばしてその世界を救う話。 ほんとうに未来に飛んだのか、それともただの妄想なのか?と思うくらいに現在の自分の人間関係に近い未来の自分。 読んでいるうちに現実か妄想かなんてどうでもよくなってくる。周司の心は未来に行き、シューの中に宿って自分にできることをやっているのだから。 救世主とあがめられるシューだが、現実には彼はたいしたことはできない。少しの人を救うことはできても、革命を成功させることはできず、いたずらに人を死なせる。 人は無力なものだ。だが、無力だからこそ人なのだと思ったりもする。無力な人が集まるから何かできるのだろう、と。 少数の支配階級と多数の役立たず、という構造。貧困と怠惰が蔓延する下層階級の人間はいなくても構わない、という考え方は根強く存在する。それは、正しいのだろうか、間違っているのだろうか。正しくもあり、間違ってもいるのだろう。役に立たないものは、いらない。そうしていらないものを切り捨てていった時、自分以外の全てのものを失うことにもなるし、自分をも切り捨てることになる。わかってはいるが、時々、無用のものを切り捨てる誘惑にかられる。 過去から未来には形あるものはなにひとつ持っていくことができない。ウィルスをひとつ飲み込んで未来に行けたら、それだけで世界は救われるのに……。 そして周司はそれを成し遂げる。記憶することによって。 「父は人間の能力に感動していました。(新聞もラジオも本も、情報をまったく与えられないという)極限状態になれば、人の力とはすごものだ。10年以上も前に一回読んだだけの本でさえ、ほとんど一字一句間違わずに暗礁することができる」 わたしは活字中毒で、読むものがなかったらしょうゆの瓶に書かれた成分表だって読む。ここ2年ほどは少し活字から離れていたが復活した今ほとんど本に溺れている状態と言ってよい。 もう幸せで幸せでたまらない。
by sya_sya
| 2005-07-13 21:45
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